遺産の使い込み?使途不明金をどのように調査したらいい?

母が亡くなり、相続のために母の遺産や負債を調べようとしましたが、世話をしていた長男が通帳を見せようとしません。不審に思い、銀行で取引明細を取り寄せたところ、母の生前、多額の預金引出しがなされていたことが分かりました。通帳を管理していたのは長男ですので、おそらく長男が引き出したのだと思いますが、取り戻すことはできますか?

使途不明金(使い込み)問題とは何か

死後、亡くなった方の預金口座から多額のお金が引き出されていたことが発覚する場合がありますが、世話をしていた親族が使い込んでいたり、相続を見越して事前に引き出していたりした可能性があります。

本来、遺産として残っているべき預金がなくなってしまったことになりますので、この預金引出しに気が付かず、減ってしまった預金残高を前提に遺産分割をすると、引き出したもの勝ちになってしまいます。

しかし、憶測や疑心暗鬼で追及姿勢に出ると感情がこじれる原因となり、遺産分割全体が進まなくなってしまいますので、使途不明金問題は慎重かつ合理的に取り扱う必要があります。

使途不明金はどのように調べるか

通帳ないし銀行取引明細書の精査

使途不明金の存在を知るためには、亡くなった方の銀行口座を調査する必要があります。通帳を保管している親族に見せてもらうのが一番早いですが、古いものは処分している場合がありますし、任意に見せてくれない場合もあります。そのような場合には、相続人の立場で、銀行から銀行取引明細書を取得することになります(名称は金融機関によって異なりますが、「取引明細書」と言えば分かります)。

通帳ないし銀行取引明細書を取得したら、まず「預金の引出し」「口座振替」「口座解約」を一つ一つ確認し、金額の大きいものをピックアップします。
具体的な事情にもよりけりですが、100万円以上の引出しだと、通常、生活費や介護費では説明が難しくなりますので、使い込みの可能性が出てきます。

次に、引出しや解約がなされた支店、引出しの時期・頻度を確認します。
亡くなった方の生活圏外で引出しがなされていれば、本人以外の人が引き出した可能性が高くなります。
また、入院中に引き出されているのであれば、本人以外の人が引き出した可能性が高いですし、亡くなる直前に頻繁に引き出されているのであれば、相続に備えて本人以外の人が引き出した可能性があります。

窓口での引出し・解約資料の精査

窓口での引出しの場合は、金融機関の窓口で払戻請求書の写しなどを取得し、誰が引き出したかを確認します。本人以外の人が代理人として引き出した場合は、代理人指定届(この人を代理人にしますという内容の書類)の写しも取得し、いつの時点で代理人として指定されたかも確認しておきます。

医療カルテ・看護記録・介護記録等の精査

引出しの当時、亡くなった方の判断能力や生活状況がどのようなものだったか調査するため、医療カルテ、看護記録、介護記録、介護保険の認定記録を取得します。請求先は、医療カルテ・看護記録は病院、介護記録は介護事業者、介護保険の認定記録は市区役所になります。

特に重要なのは、入院年月日・期間・症状が分かる主治医意見書・診療情報提供書、長谷川式スケール(HDS-R)とミニメンタルステート検査(MMSE)という認知症テスト、亡くなった方の当時の言動が分かる医療カルテ・介護支援経過・介護認定の概況調査特記事項です。これらを時系列で精査、分析し、預金口座の引出しと照らし合わせ、その時期に亡くなった方が引き出せる状況だったか、引き出す理由があったかを推測していきます。

注意点は、資料の保存期間です。介護保険の認定記録の保存期間は5年とされていますし、他も同程度と考えておいた方がいいです。取得できる資料はなるべく取得しておいた方がいいので、思い立ったら早めに着手した方がいいでしょう。

また、医療機関や市区町村によっては、裁判における証拠調べ(文書送付嘱託)でなければ、資料を開示しない場合があります。その時は、取得できる資料を集め、残りは裁判所経由で取得することを考えます。

使途不明金が判明したらどうするか

使途不明金の存在が判明したら、引出し・解約の理由とお金の使い道を調査する必要があります。預金の引出しは相続税の税務調査における花形みたいなものですが、遺産の分け方(遺産分割)にも大きく影響します。

まずは預金の引出し等に関わった(ないし関わったと思われる)親族に確認します。「生活費」「介護費」「医療費」と言われることも多いですが、生活費等では説明ができない場合(金額が多すぎる場合)もありますので、納得できない場合は、根拠や裏付けを求めるべきでしょう。

お金の使い道が判明した場合はどうするか

引出し・口座解約をしたお金の使い道が判明した場合、その使い道に応じた対応をします。

亡くなった方からの生前贈与であれば、遺産分割において特別受益として扱うことを検討します。簡単に言えば、生前に財産をもらった相続人は遺産分割において相続分が減り、逆に他の相続人の相続分は増えます。

引出し・口座解約をした親族が自分のために使っていたのであれば、亡くなった方の同意・了承があったかどうかで法的な性質が変わります。亡くなった方の同意・了承があった場合は生前贈与になり、同意・了承がなかった場合は亡くなった方に対する損害(ないし不当利得)になります。

生前贈与であれば、前記同様、遺産分割において特別受益になり得ますが、損害(ないし不当利得)であれば、損害賠償等を請求する権利を相続し、別途損害賠償(ないし不当利得返還)を請求することになります。

もっとも、相続人同士の合意があれば、損害賠償(ないし不当利得)も遺産分割の中でまとめて解決できますので、まずは遺産分割に組み入れる損害額を話し合うことが通常です。

お金の使い道が判明しない場合はどうするか

引出し・口座解約をしたお金の使い道が判明しない場合(証拠がなくて分からない場合も含みます)、遺産分割で反映させるか、損害賠償(ないし不当利得返還)を請求するか、一義的に対応方法が決められるわけではありません。

もっとも、相続人同士の合意があれば、いずれにせよ遺産分割の中で解決できますので、まずは遺産分割の中で解決できるかどうか話し合いをするのが通常です。

話し合いがまとまらない場合は、損害賠償(ないし不当利得返還)で訴訟提起することを検討します。一応、遺産分割調停や民事調停で話し合いをすることも考えられますが、話し合いがまとまらなければ、結局、訴訟提起せざるを得ません。

*債権回収の方法については、以下の弁護士コラムをご参照ください。

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使途不明金(使い込み)問題で重要なこと

使途不明金問題でまず重要なことは、決着は訴訟でつけますので、最終的には請求する側が損害や不当利得を証明しなければならないということです。

お金の引出しがあったという事実だけでなく、「誰が」「何のために」引き出したかについても、裏付けを用いて説明する必要があります。様々な事実関係と証拠に基づき、総合的に判断しますので、あまり些末なことにこだわりすぎる必要はありませんが、預金口座の情報だけでなく、医療・介護記録なども精査する必要があります。

また、使途不明金の追及ばかりに目が行き、遺産分割の話し合いが完全に止まってしまう場合も多いです。その分、固定資産税や管理料の支払いがずっと続いたり、相続税の申告で特例が使えなくなったりしますので、遺産分割との兼ね合いや落としどころなどを考慮した方針を慎重に検討する必要があります。

まとめ

  • 使い込み問題の出発点は、通帳や銀行取引明細書などの金融機関の資料です。
  • 医療介護の資料も重要ですが、保存期間に注意してください。
  • 引き出したお金の使い道次第では、使い込みにならない場合があります。
  • 生前贈与でも使い込みでも、相続人が合意すれば遺産分割の中で解決できます。
  • 話し合いで解決できない場合、損害賠償(ないし不当利得返還)で訴訟提起します。
  • 追及する側が損害(ないし不当利得)を証明する必要があるため、方針は慎重に検討する必要があります。

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