【強制執行の新手法】「第三者からの情報取得手続」で不動産・口座を差し押さえる!

2020年4月、改正民事執行法が施行され、「第三者からの情報提供手続」という財産調査の制度が新設されました。

今までは、債務者の財産を発見・特定する方法が限られており、「支払うお金がない」という一方的な言い分がそのまま通ってしまうような債務者天国でした。しかし、この新しい制度により、債務者の財産を発見・特定することが容易になりました。

今回は、新設された「第三者からの情報取得手続」で不動産・口座を発見・特定する方法をお話しします。

「第三者からの情報取得手続」とは?

強制的に債権を回収するためには、強制執行が必要です。しかし、強制執行をするためには、差し押さえる財産を特定しなければなりません。

債務者に財産を開示させる「財産開示手続」(民事執行法197条)という制度はありますが、債務者が自分自身の財産をすんなり開示するとは限りません。

2020年4月に改正民事執行法が施行され、財産開示を拒否したり嘘をついたりすると刑事罰が科される(つまり、犯罪者になる)ようになりました(民事執行法213条1項6号)。そのため、利用者が極めて少なかった以前の制度よりは、実効性がかなり高まったといえます。しかし、嘘をついたかどうかは必ずしも分からないため、どこまで実効性があるかはいまだ不透明です。

強制執行の実効性を確保するため、同じく改正民事執行法により、「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されました(民事執行法204条~211条)。裁判所が銀行などの第三者に命じて債務者の財産情報を提供させる制度ですので、差し押さえる財産の発見・特定が容易になります。

情報提供の対象となる財産

差し押さえる財産の発見・特定が容易になる「第三者からの情報提供手続」ですが、あらゆる財産が対象となるわけではありません。情報提供の対象となるのは、以下の財産です。

不動産(2021年5月16日までに開始予定)

債務者名義の不動産について、法務局から情報提供してもらうことができます(民事執行法205条)。具体的には、債務者名義の不動産の所在地や家屋番号になります。それにより、不動産を差し押さえるために必要な情報を不動産登記簿で調べられるようになります。ただし、不動産についてはまだ未施行で、2021年5月16日までに開始されることになっています。

これまでは、債務者の住所や本店所在地の土地・建物やそれに共同担保で付いている不動産ぐらいしか調査できませんでしたが、不動産の情報提供が開始されれば、債務者名義の不動産を発見・特定することが容易になります。

給与債権

債務者の給与・賞与について、市区町村・日本年金機構・公務員共済組合などから情報提供してもらえます(民事執行法206条)。具体的には、給与の差押えをするために必要な情報、つまり、給与等を支払っている者(勤務先)の有無、勤務先の氏名・名称・住所といった勤務先の情報になります。それにより、勤務先が分からない(ないし分からなくなった)債務者の給与・賞与を差し押さえ、強制的に債権回収できるようになります。

預貯金、上場株式等

債務者の預貯金について、銀行・信用金庫などから情報提供してもらえます(民事執行法207条1項1号)。具体的には、預貯金を差し押さえるために必要な情報、つまり、債務者が有している預貯金口座の支店名、種類、口座番号、額になります。

また、上場株式・国債・投資信託等についても、口座管理機関である証券会社などから情報提供してもらえます(民事執行法207条1項2号)。具体的には、上場株式等を差し押さえるために必要な情報、つまり、債務者名義の上場株式等の有無、銘柄及び数又は額になります。

これまでも、弁護士が所属する弁護士会を通じた調査(弁護士会照会)であれば、預貯金口座の情報提供をしてくれる金融機関はありました。しかし、「第三者からの情報提供手続」の新設により、情報提供は法律上の制度になりましたので、今後は、全ての金融機関・口座管理機関が応じることになります。

申立てに必要な要件

①執行力のある金銭債権の債務名義の正本を有していること

「金銭債権」とは、貸金や売掛金などのお金を請求できる権利のことです。

「執行力のある債務名義」とは、和解調書や確定判決などの強制執行するためのパスポートのことです(民事執行法22条)。公正証書も、強制執行執行認諾文言(約束どおりに履行しない場合には強制執行に服するという条項)が付いていれば、執行力のある債務名義となります。

*給与債権や葬儀費用請求権などの「一般先取特権」(民法306条)は債務名義不要ですが、ここでは割愛します。

なお、勤務先の情報提供については、

  • 婚姻費用や養育費など民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権
  • 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権

に限られますつまり、貸金や売掛金を回収するために勤務先の情報提供を求めることはできません。

*売掛金の回収方法については、以下の弁護士コラムをご参照ください。

関連記事

売掛金を確実に回収するためには、最終的に強制執行までする必要があります。今までは強制執行の対象財産を特定することがなかなか困難でしたが、2020年4月に改正民事執行法で「第三者からの情報取得手続」が新設され、強制執行[…]

②執行開始要件を備えていること

債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されていること等の執行開始要件を備えていることが必要です。

③強制執行を開始することができない場合でないこと

債務者が破産手続開始決定や民事再生手続開始決定等を受けている場合、破産債権や再生債権等に基づく申立てはできません。破産手続や民事再生手続が正式に開始されると、債権回収はそちらの手続の中で取り扱われることになります。

④強制執行が功を奏しない場合であること

以下のどちらかの事実を主張・立証することが必要です。

  • 強制執行をしたが完全な弁済を得ることができなかったこと
    6か月以内に実施された強制執行等の手続で、債務名義に表示された金銭債権等の完全な弁済を得ることができなかったことを証明する必要があります。
  • 強制執行をしても完全な弁済を得られないこと
    債務者が不動産、動産、債権、その他の財産を持っているかどうかを調査し、財産がある場合は、強制執行をしても,債務名義に表示された金銭債権の完全な弁済を受けられないことを疎明する必要があります。

⑤財産開示手続を先に行うこと(不動産情報、勤務先情報)

不動産の情報と勤務先の情報については、情報提供申立の日より前3年以内に財産開示期日における手続(民事執行法199条)が行われたことの証明が必要です(財産開示手続前置)。

情報提供手続の流れ

①裁判所に対する情報提供の申立て

情提供手続を申し立てる裁判所(管轄裁判所)は、
・債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所
・(普通裁判籍がないときは)情報の提供を命じられる者(第三者)の所在地を管轄する地方裁判所
になります。

たとえば、債務者が東京23区内に住んでいるのであれば東京地方裁判所(民事執行センター)、23区外(島しょ部除く)に住んでいるのであれば東京地方裁判所立川支部に申立てをします。

②情報提供決定

申立ての要件を満たしていると判断された場合、裁判所が情報提供をすべきという命令(情報提供決定)を発令します。

なお、申立てが却下された場合、申立人は、執行抗告という不服申立てをすることができます。

③情報提供決定正本の発送

【不動産情報・勤務先情報】

債務者に情報提供決定正本が送達されます。
つまり、不動産・勤務先の情報提供については、この段階で、情報提供決定が出たことを債務者に知られることになります。
また、債務者は、1週間以内に執行抗告という不服申立てをすることができます。

②①と同時に、申立人に情報提供決定正本が送付されます。

③情報提供命令が確定すると,法務局・市区町村等に対し,情報提供命令正本が送付されます。

【預貯金情報・株式等情報】

①金融機関・口座管理機関等に対し,情報提供命令正本が送付されます。

②①と同時に、申立人に対し、情報提供命令正本が送付されます。

*不動産情報・勤務先情報とは異なり、この段階では債務者には通知しません。

④第三者からの情報提供とその通知

情報提供命令正本の送付を受けた第三者は、債務者の財産情報を書面で提供します(東京地裁の運用では、情報提供命令正本が届いてから2週間以内)。提供の方法は、情報提供書(原本)とその写しを作成し、裁判所に原本・写しとも提出するか、裁判所には原本を提出し、写しを申立人に直送します。

第三者から裁判所に情報提供書が届くと,裁判所は、第三者から情報提供書が提出された後1か月が過ぎた時点で、債務者に対し、財産情報が提供された旨を通知します預貯金・株式等の情報提供については、この段階で、情報提供決定が出たことを債務者に知られることになります。

債務者への通知に要注意!

不動産情報・勤務先情報については情報提供決定後に、預貯金情報・株式等情報については第三者から情報提供書の到着から1か月後に、債務者に対し、情報提供決定についての通知がなされます。

そのため、特に引出し・解約が容易な預貯金・上場株式等については、情報提供がなされ次第、即強制執行の申立てをする必要があります。

債務名義を取得し、きっちり債権回収しましょう

「第三者からの情報提供手続」の新設により、債務名義があれば、債務者の財産を発見・特定することが容易になりました。

今までは、債務者の財産を発見・特定する方法が限られており、「支払うお金がない」という一方的な言い分がそのまま通ってしまうような債務者天国でした。しかし、これからは、債務名義が「強制執行のパスポート」であるだけでなく、「財産調査のパスポート」にもなります。交渉段階で諦めず、裁判まで起こした債権者が報われる時代になったといえます。

もっとも、情報提供したことは債務者にも通知されますので、財産隠しのリスクは残ります。確実に債権を回収するには、債務者の財産を発見・特定できたら即強制執行するスピードが重要です。

>お問い合わせフォーム(24時間受付)

お問い合わせフォーム(24時間受付)

ご相談・ご質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。担当者から24時間以内にご連絡いたします。