【改正民事執行法対応】売掛金を確実に回収するための5つの心得

売掛金を確実に回収するためには、最終的に強制執行までする必要があります。今までは強制執行の対象財産を特定することがなかなか困難でしたが、2020年4月に改正民事執行法で「第三者からの情報取得手続」が新設され、強制執行の実効性が高まりました。

今回は、「第三者からの情報取得手続」も意識した「売掛金を確実に回収するための5つの心得」についてお話しします。

心得1:一歩早めの対応を心掛ける

売掛金の「支払い」を受けることは簡単です。しかし、売掛金の「回収」は簡単ではありません。取引先から「支払い」をしてくれるのではなく、こちらが「回収」に動かなければならないのであれば、すでに支払いの余力が低下している可能性が高いからです。

いわば限られたパイを奪い合う状態ですので、早めに自社への支払いの優先度を上げ、現実の回収まで持っていった債権者が勝ちます。もっとも、支払ってくださいとただ繰り返すだけでは、必ずしも現実の回収につながるわけではありませんし、そうこうしているうちに破産されたら意味がありません。回収までのスピードと戦略が必要です。

たとえば、会社の本店所在地や代表者の自宅を不動産登記であらかじめ確認しておけば、不動産を担保に入れさせたり、仮差押えの判断が早くなったりします。また、代表者に連帯保証させておけば、会社名義の資産だけでなく、代表者名義の資産も回収対象に入ってきます。遅れるとどんどん担保余力もなくなっていきますので、支払いをただ求める以外の手段を一歩早めに検討する必要があります。

心得2:交渉している間に取引先の資産情報を取得する

売掛金を回収する方法は、現金での支払いに限られません。他の財産があれば、それを担保に取ったり、強制執行したりすることもできます。

しかし、取引先の資産状況は、外部からは分からない場合が多いです。本店所在地や代表者の自宅に当たりをつけて不動産登記を調べたり、ホームページで取引先や取引銀行を調査したりすることはできますが、それで判明する資産は限られます。そのため、強制的な回収に動く前の交渉段階で、いかに取引先から資産情報を引き出せるかが鍵になります。

取引先の資産情報として価値が高いのは、直近の税務申告書です。預貯金、生命保険(=解約返戻金)、取引先(=売掛金)、賃貸物件(=敷金・保証金)など資産情報の宝庫ですので、支払い期限のリスケをする代わりに税務申告書のコピーを提出させるなどしておくと、交渉から強制回収に移行するまでの意思決定が早くなります。

また、会社の情報だけでなく、代表者や親族の資産情報を引き出し、支払期限のリスケをする代わりに連帯保証をつけることも検討すべきです。

心得3:契約の内容ややり取りが証拠として残るようにしておく

取引を口頭や簡易な書面だけで行っていると、後になってから契約の内容に認識違いが生じる可能性があります。特に、支払いが難しくなってくると、支払期限や条件を自分に都合よく解釈しがちですし、裁判になると、支払期限を延期してもらったなど様々な反論が出てくることもあります。

そうなる前に、売掛金の金額、支払期限、納品確認などを改めて書面で残しておき、認識違いや反論の余地をなくしておくべきです。できれば代表者の署名(記名)・押印が欲しいところですが、請求書の余白に内容を確認した旨の署名・押印を担当者からもらうだけでも、何もないよりは紛争予防に役立ちます。

また、支払いの交渉をするときも、最初と言うことが変わってきたり、警戒して明確なことを言わなくなったりします。そのようなときに何も証拠がないと、そんなことを言った記憶はない、そんな意味じゃなかったなどの「言った言わない問題」になり、交渉では収拾がつかなくなります。取引先と支払いの交渉をするときは、メールであれば削除せずに保存しておく、口頭であれば録音しておくなど、やり取りが証拠として残るようにしておくことをお勧めします。

心得4:「第三者からの情報取得手続」で強制執行の対象財産を把握する

強制執行するために必要なこと

売掛金を確実に回収しようと思ったら、最終的には強制執行まで考える必要があります。しかし、取引先の財産を差し押さえ、強制執行するためには、

  • 「債務名義」を取得する

  • 差し押さえる財産を特定する

ことが必要です。

「債務名義」とは?

借用書や契約書があったとしても、それだけでは強制執行できません。「債務名義」という強制執行のパスポートが必要です。具体的には、強制執行認諾文言付きの公正証書、確定判決、和解調書などです(民事執行法22条)。

差し押さえる財産を特定する方法

何でもいいから差し押さえてくれと言っても、裁判所は強制執行してくれません。強制執行で売掛金を回収するためには、差し押さえる財産をこちらで特定する必要があります。現実問題、強制執行で難しいのは、強制執行の対象財産を発見・特定することであり、債務名義がただの紙切れになってしまう大きな要因でもあります。

交渉段階で取引先の資産情報を取得する理由は、強制執行を現実に行えるようにするためであり、強制執行されるというプレッシャーで支払いの優先度を上げるためです。しかし、債務名義を取得するためには一定の時間が必要ですので、その間に資産状況が変わることはよくあります。また、強制執行を回避するため、別口座を新規に開設し、預貯金をそちらに逃がす可能性もあります。

そのため、債務名義を取得した後、改めて取引先の資産状況を調査する必要があります。今までは、債務者の資産状況を調査するのがなかなか難しかったのですが、2020年4月に施行された改正民事執行法において、「第三者からの情報取得手続」が新設されました(改正民事執行法204条~211条)。債務名義があれば、この「第三者からの情報取得手続」により、取引先の預貯金口座や不動産などの情報を銀行などから取得できるようになりました。不動産の情報取得手続は2021年5月16日までに開始されることになっていますが、不動産の情報も取得できるようになれば、売掛金回収の実効性も高まります。

*詳細は、以下の弁護士コラムをご確認ください。

関連記事

2020年4月1日、改正民事執行法が施行されました。債権回収との関係で重要なのは、①財産開示手続の見直し②第三者からの情報取得手続の新設です。一言で言えば、債務者の財産を補足しやすくなり、債権回収が容易になります。[…]

債権回収・売掛金回収
関連記事

2020年4月、改正民事執行法が施行され、「第三者からの情報提供手続」という財産調査の制度が新設されました。今までは、債務者の財産を発見・特定する方法が限られており、「支払うお金がない」という一方的な言い分がそのま[…]

連帯保証で強制執行の対象財産を広げる

取引先だけでなく、代表者や親族を連帯保証人にしておけば、強制執行の対象財産が広がります。連帯保証人も債務者ですので、債務名義を取得すれば、たとえ取引先に資産がなかったとしても、連帯保証人の財産を「第三者からの情報取得手続」で把握し、差し押さえることができます。事前に連帯保証人をつけているかどうかで大きく変わりますので、ここも交渉段階での対応が鍵となります。

心得5:交渉段階で諦めてしまわない

交渉ではなかなか支払ってもらえず、業績悪化で支払能力もなさそうだと、売掛金の回収自体を諦めてしまいがちです。どこかで損切りするという発想は分かりますが、裁判で支払いについての話し合いが進む場合も多いので、交渉段階で回収を諦める必要はありません。

また、ある程度時間が経てば、業績が少しでも回復しているかもしれませんし、個人事業者や連帯保証人であれば、預貯金や不動産などを相続で取得する場合もあります。そのようなとき、和解調書や判決などの債務名義を持っていれば、すぐ強制執行に移ることができますが、債務名義がなければ、また一から進める必要があります。その分、時間がかかりますので、売掛金を回収するタイミングを失する可能性があります。

破産されたら仕方ありませんが、債務名義さえ取得していれば「第三者からの情報取得手続」も利用でき、債務者の財産の発見・特定が容易になります。以前より強制執行のハードルも下がりますので、交渉段階で簡単に諦める必要はありません。「諦めたら試合終了」です。

>お問い合わせフォーム(24時間受付)

お問い合わせフォーム(24時間受付)

ご相談・ご質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。担当者から24時間以内にご連絡いたします。