①遺産の分け方=遺産分割
②預貯金の解約や不動産の名義変更など=遺産整理
③相続税の支払い=相続税申告
があります。
もっとも、
①遺産分割→遺産をどのように分けるかという「中身の問題」
②遺産整理③相続税申告→遺産分割の内容に従って行う「手続の問題」
です。
この中身と手続に関して、遺産相続を法律どおりに行うための3つのポイントがあります。以下、その3つのポイントについてお話しします。
ポイント1:相続発生の前後の事情にも着目する!
相続=「相続時に残っている遺産」を単純に分ける「手続」と考える方は多くいると思います。たしかに、相続の「手続」は煩雑で面倒ですが、実は、分け方=「中身」にも多くの問題があります。
相続において問題となる重要な課題を一覧表にまとめると、以下のようになります。盲点となりやすいのは、
相続時だけでなく、相続発生の前後の事情にも着目する必要があること
です。
遺言あり | 相続前 | 相続時 | 相続後 |
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遺言なし | 相続前 | 相続時 | 相続後 |
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たとえば、相続の前になされた生前贈与(特別受益)や亡くなった人への貢献(寄与分)も相続分に反映できます。それを知らなければ(知らされなければ)、相続時に残っている遺産を単純に分けることが正しい相続だと誤解し、法律で認められている相続分は実現できません。
相続の前に使い込みで預貯金が減っていれば、その減った預貯金をいくら平等に分配しても、使い込みを知らない相続人は損をする結果になります。
相続の後に生じた賃料について、独り占めしている相続人に分配請求できることを知らなければ(知らされなければ)、法律で認められている権利を捨てるのと同じ結果になります。
揉めないことを最優先にするのであれば、余計なことを言わず、「いい感じに」相続手続を進めるのももちろんありです。しかし、特定の相続人が何も言わずに我慢したり、肝心なことを知らされずに相続の書類にサインしたりした結果、兄弟間で遺恨が残ってしまう場合もあり、そのような場合には、とても円満な相続とはいえません。
ポイント2:相続は中身(遺産分割)こそ重要!
遺産整理や相続税の相談からスタートすると、いきおい相続手続・相続税申告に遺産分割の内容を合わせがちです。つまり、相続手続をスムーズに進めるため、 意見の違いが出やすい中身の問題には蓋をしてしまうことがあります。
しかし、遺言書などで遺産の分け方が決まっていない場合、相続人同士で遺産分割協議をし、それに従って相続手続が決まります。つまり、相続の本体は、遺産分割という「中身」です。中身と手続と両立させることはもちろん必要ですが、手続の便宜で遺産の分け方を決めるのは順番が逆です。
面倒な相続手続や相続税の申告期限のことを考えると、相続手続をスムーズに進めることはとても大事です。しかし、ポイント1で述べたとおり、相続手続や相続税だけでなく、相続の中身にも検討すべきことは多くあります。手続ばかりに目が向いてしまうと、中身に関する多くの問題に気が付かないまま相続は終わります。
なお、相続税との関係で言えば、小規模宅地や配偶者控除などの税務特例を使うと、相続税が大幅に減ります。遺産分割という中身が重要とはいえ、税務特例を考慮せず、好きなように分け方を決めると、税金面で損をする可能性がありますので注意が必要です。
ポイント3:遺産は「具体的相続分」で分ける!
相続分に関する大きな誤解
遺言書がない場合、相続人同士で話し合い、遺産の分け方を決めます(遺産分割)が、その分け方をご存知でしょうか。
話し合いでまとまる場合には、どのように分けても構いませんし、究極、相続放棄をしたり、相続分を他の相続人に全部あげたりすることもできます。逆に、話し合いでまとめらない場合には、裁判所が法律のルールに従って決めることになります。
しかし、問題は、法律でどのようなルールが定められているのかです。「法定相続分」で分けるものだと考える方もいますが、そこには重大な誤解があります。
「法定相続分」とは何か
遺言で相続分の指定がない場合、民法が定める相続分が適用されます。これを「法定相続分」といいます。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
法定相続分は亡くなった方との身分関係で一義的に決まり、たとえば、配偶者と子供1人であれば、法定相続分はそれぞれ2分の1です。
これだけであればとても簡単なのですが、法律のルールはこれに留まりません。結論から言えば、法定相続分というものは、法律が定めている実際の相続分ではありません。
実際の相続分は「具体的相続分」
それでは、法律が定めている実際の相続分とはどのようなものでしょうか。民法には、以下のとおり定められています。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
つまり、相続開始時の相続財産を単純に法定相続分で分けるのではなく、
②相続人→亡くなった方への貢献(寄与分)を相続財産から減らし、貢献をした人の相続分に加える
という修正を行います。この特別受益と寄与分で修正した相続分を「具体的相続分」といい、これが実際の相続分となります。
数式にすると、
となります。
ごく簡単に言いますと、生前にもらった分だけ相続分は減り、生前に貢献した分だけ相続分は増えるということです。法定相続分は、実際の相続分を決めるための計算上の一要素にすぎません。
具体例
【法定相続分で相続財産を分けるものだと誤解した場合】
相続で取得する金額は以下になります。
子供A=1000万円×1/2(法定相続分)=500万円
子供B=1000万円×1/2(法定相続分)=500万円
【特別受益と寄与分を考慮し、法律が定めている本来の相続分で計算した場合】
相続で取得する金額は以下になります。
子供A={(1000万円+500万円-500万円)×1/2}-500万円=0円
子供B={(1000万円+500万円-500万円)×1/2}+500万円=1000万円
つまり、法定相続分で単純に分けるものだと誤解した場合、子供Aは本来の相続分より500万円多く取得しますが、子供Bは本来の相続より500万円少なく取得することになります。
以上はあくまでも机上の計算であり、特別受益の持ち戻し、金額の算定方法、証拠による裏付けの問題はありますが、法定相続分で単純に分けるという考え方が大きな誤解であることは分かります。
相続分に対する正しい理解が必要
このように、実際の相続分は、特別受益、寄与分、使途不明金など様々な要素を考慮して決まるものであり、法定相続分=実際の相続分ではありません。
たしかに、単純に法定相続分で分けた方が、法律で割合が決まっているため、揉めにくいかもしれませんし、それも争いを回避する有力な方法ではあります。しかし、本来あるべき相続という観点からすれば、誤解した結果ではなく、争いを回避するための知恵として納得した上ですべきかと思います。
逆に、残っている遺産を単純に〇分の1で分けようとする相続人の方も、それが当然の分け方ではないことを知っておくべきです。他の相続人の言い分をごねているだけだと決めつけず、理由や根拠を冷静に考えることが必要です。