ゲートウェイ東京法律事務所の代表弁護士の髙橋と申します。
ご依頼の9割以上が相続に関する案件で、特に遺産分割、遺留分請求、使い込み問題に力を入れている「相続に特化した弁護士」です。
今回は、
【相続の使途不明金・使い込み問題をうまく解決する方法を知りたい人】
に向けたお話になります。
もめないことが何よりも大事な人であれば、ここから先のお話には価値がありません。申し訳ありません。
しかし逆に、形だけの円満相続で後悔したくない、キッチリした「普通の相続」を実現したいのであれば、これを知っておくだけであなたの相続は変わります。しかも、難しい専門知識はいらない、意外とカンタンなお話です。
使途不明金・使い込み問題が長引く原因
相続問題は長引くと言われますが、使途不明金・使い込みの問題はそれに拍車をかける典型的な争点の一つです。
解決を長引かせる原因は様々ですが、一般化できる原因としては、以下のことがあげられます。
1.肝心の人が亡くなっているため、真相が必ずしも分からない
被相続人の預金を引き出す理由は、日常的な生活費や介護費はもちろんのこと、旅行、冠婚葬祭、親族へのこづかい、家具の購入、自宅のリフォーム、手術・入院費など、その人の生活状況や資産状況に応じて様々考えられます。
しかし、相続が開始してから遡って解明しようとしても、被相続人に聞くことはできません。事情を知っている相続人が冷静にしっかりとその事情を話さなければ、真相が分からない状態が延々と続き、解決がただ遠のくだけになります。
2.感情がこじれ、双方の認識違いが固定化しやすい
1とも関係しますが、真相が分からない状態が続くと、追及する側は憶測で物事を考えざるを得なくなります。追及する側は疑惑を深めますが、追及される側は疑われていることに怒り、疑惑と怒りの感情がぶつかり合います。
双方引くに引けない状態になるため、ただでさえ解明しづらい事実関係の認識違いを埋めることが難しくなります。
3.調停でまとめて解決できるとは限らない
使途不明金・使い込み問題を話し合い(調停も含む)で解決する場合、預り金という財産に加えたり、生前贈与(特別受益)で処理したりします。
しかし、調停において預り金や生前贈与で処理することを拒否された場合、使途不明金・使い込み問題は調停から切り離されるため、別途訴訟を提起する必要があります。訴状の作成や証拠の整理を一からしなければならず、二度手間になります。
4.裁判所の手続がとても遅い
裁判所の手続は、一般の方が想像するよりも遥かに遅いです。まるで亀のようです。通常の相続でも数か月で終わればものすごく早い方で、使途不明金・使い込み問題を争点に出せば、年単位は覚悟しなければなりません。
そして、3でも述べたとおり、調停で話がまとまらなければ、別途訴訟を提起する必要がありますので、「亀のレース」を二回も見させられることになります。これに耐えられる柔軟かつ強靭な精神力がないと、心身ともに疲れてしまい、結局当初の提案とあまり変わらない内容で話をまとめることにもなりかねません。
全く話が進まない場合は裁判所を使った方が早いですが、なるべく「亀のレース」に頼らずに済むようにしたいところです(裁判を生業にする弁護士が言うのもあれですが)。
使途不明金・使い込みを「追及する側」の心構え
1.憶測で事実関係を決めつけない
使途不明金・使い込みを追及する側の相続人は、亡くなった人の生活圏から離れていた人が多いです。実際には様々な事情があった可能性もあるため、生煮えの状態で追及姿勢になれば、相手の感情を害するのは当然といえます。
詳しい事情を知らないのであれば、憶測で決めつけず、まずは事情を教えてもらうというスタンスでいた方が解決に近づきます。
2.重箱の隅を突っつかない
1か月の間に50万円ずつ何度も引き出されている場合がありますが、そのような預金引出しの使い道は限定され、何か特別な理由があったはずです。
しかし、引き出された預金の金額が小さければ小さいほど、様々な使い道が考えられ、説明がつきやすくなります。たとえば、月に1回10万円程度の引出しがあった場合、すべて生活費に充てられた可能性は大いにあります。たとえレシートや領収証がなかったとしても、使い道として合理的に説明し得るのであれば、使い込みと捉えるのは困難になります。
細かい引出し現金の行方を証明するのは、
【川の中に落ちているコインを探すようなもの】
です。
説明がつきやすい細かい引出しにまで着目するのは得策ではなく、使い道を説明しづらい大きな引出しに絞る方が円滑な解決につながります。
また、使途不明金・使い込みを解明する理由は、相続に反映させることです。そのため、預り金、特別受益、損害賠償(ないし不当利得)として「相続に反映できる限りで」行うことが重要です。解明自体を目的にすると、どんどん本筋から離れていく可能性があります。
3.追及と円滑な解決のトレードオフを意識する
使途不明金・使い込みの追及に前のめりになればなるほど、相手の態度は硬化し、口を閉ざしてしまいますので、円滑な解決は遠のきます。そのような意味において、追及・解明と円滑な解決は両立しがたい「トレードオフ」の関係にあります。
使途不明金・使い込みを暴くことを重視するのであれば、訴訟も辞さない気持ちで臨む必要があり、円滑な解決は期待しない方がいいでしょう。
逆に、円滑な解決を望むのであれば、ある程度の割り切りとバランス感覚が必要になります。
4.立証責任を正しく理解する
考え方は分かれるところですが、基本的に、使途不明金・使い込みを証明するのは追及する側です。極端な話、相手が何も答えない場合、裁判の制度上、追及する側が一から証拠を集め、証明しなければなりません。
しかし、あなたは警察ではありません。
自分で集められる証拠には限りがあります。
いかに相手に説明をさせるか、いかに資料を出してもらうかがとても重要です。
北風と太陽のようなものですが、
【北風だけで使途不明金・使い込みを解明することは困難】
です。
使途不明金・使い込みを追及する方法については、以下のコラムをご参照ください。
使途不明金・使い込みを「追及される側」の心構え
1.怒らない
預金を引き出すのは親の世話をしていた相続人であることが多いです。あまり親と関わってこなかった相続人に追及されるのは面白くないでしょう。
しかし、怒りに任せて感情をぶつけても解決にはならず、むしろ調停や訴訟にお付き合いしなければならなくなります。寄与分や特別受益の持ち戻し免除といった別の理屈で不満を解消できる場合もありますので、論点を混同せず、まずは冷静になる必要があります。
2.できる限りの説明をする
追及する側は、預金引出しの詳しい事情を知らずに追及してくる場合が多いです。疑いの目で見られるのは面白くないでしょうが、しっかり説明しないとますます疑惑を深めます。
感情的な対立だけで済むのであればまだいいのですが、相続全体がまとまらず、調停や訴訟にお付き合いしなければならないという「実害」を被ります。
裁判という「亀のレース」に巻き込まれること自体、時間と費用と労力の無駄ですので、割り切ってできる限りの説明をした方が自分のためになります。
また、預金の引出しは税務上の問題が生じることがありますので、税務申告との関係でも、安易な説明や処理で済ませない方がいいでしょう。
3.落としどころも意識する
引き出したお金の使い道について、裏付けを保管していないことがあります。預金引出しの金額が小さければ、裏付けがなくても合理的な使い道を説明しやすいですが、金額が大きいと、裏付けなしで説明することは困難になります。
裁判で不利になる可能性がある場合には、裁判という「亀のレース」に巻き込まれる前に、ある程度の落としどころも意識した方がいいでしょう。
使途不明金・使い込み問題で最も大事なこと
使途不明金・使い込み問題はとても繊細な問題で、預金引出しの真相が分からないまま、泥沼の揉め事に発展することが多いです。
使途不明金・使い込み問題で最も大事なことは、本来、生前の対応や関わりにより、問題の顕在化を未然に防ぐことといえます。
もし未然に防げなかった場合は、必要以上に疑ったり、必要以上に攻撃したり、必要以上に感情的になったり、必要以上に恨んだり、必要以上に開き直ったり、必要以上に説明を放棄したり、必要以上に論点をずらしたりせずに、冷静にお互いの認識違いを埋める作業をする必要があります。そうでないと、あなた自身が「実害」を被ります。
相続の正しい理解が大事
使途不明金・使い込み問題を解決する方法と心構えをきちんと知っていれば、感情ばかりがぶつかり合い、泥沼の裁判を何年も続けるという「実害」を避けられます。
法律というよりも、コミュニケーションの要素が強いので、ある程度までは専門家でなくても対応できます。
もちろん、さらに進んで相続のことを知っておくに越したことはありません。
相手とやり合うための知識をもっと身に着けたいという人は、
をご参照ください。もちろん、全て無料で提供しています。
あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「普通の相続」を実現することを祈っています。
もし話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。一緒に解決策を考えましょう。