不動産の調査方法

不動産の強制執行をするためには、債務者名義の不動産を特定する必要があります。不動産登記簿には登記情報が記載されており、誰でも登記情報を確認することができます。もっとも、その登記情報を確認するためには、少なくとも不動産の地番や家屋番号を特定する必要があります。当たりをつけて片っ端から探すこともできますが、物件数は多く、登記事項証明書を取得するのにも費用がかかりますので、現実的ではありません。

ここでは、従来の調査方法と、2020年4月施行の改正民事執行法で強化された「財産開示手続」及び新設された「第三者からの情報取得手続」による調査方法について説明します。

相続不動産の特定は容易

相続問題に絡む強制執行であれば、すでに相続不動産は分かっているはずです。他の相続人が不動産を相続し、その代償金を支払わない場合であれば、相続不動産を強制執行をすれば足ります。問題は、それ以外の不動産の調査方法です。

債務者の住所から不動産を調査する方法

最も簡単な不動産の調査方法は、債務者の住所や旧住所の登記情報を取得することです。持ち家に住んでいる場合や転勤などで持ち家を賃貸に出している場合はよくありますので、まずはここから調査をします。

ただし、登記上の地番と住居表示は必ずしも一致しませんので、住所からストレートに登記情報を取得できるわけではありません。法務局に地番照会をしたり、ブルーマップ・地番検索サービスで地番を特定したりして、登記情報を取得する必要があります。

なお、昔の債務名義の場合、転居して住所が変わっている可能性がありますので、住民票や戸籍の附票を取り寄せ、現住所を調査します(一般の人ではできませんが、弁護士は「職務上請求」という権限で取り寄せることができます)。

法人の本店所在地・営業所から不動産を調査する方法

債務者が法人か法人代表者の場合、法人の本店所在地・営業所が法人ないし法人代表者の所有不動産である場合がよくあります。法人のホームページをや法人の商業登記情報で本店所在地や営業所を確認できますので、あとは地番を特定し、不動産登記情報を取得することになります。

また、法人や法人代表者の不動産は他の不動産も共同担保に入っているときがあり、その場合、不動産登記簿の共同担保目録に他の所有不動産の情報も載っています。そのため、不動産登記情報を取得するときは、共同担保目録付きのものを請求する必要があります。

財産開示手続で不動産を調査する方法

財産開示手続とは?

財産開示手続とは、債務者を裁判所に呼び出し、所有する財産を開示させる裁判所の手続です。以前はあまり利用されていなかった手続ですが、2020年4月施行の改正民事執行法で大幅に強化されました。また、不動産の情報については、後述する「第三者からの情報取得手続」の前提条件として財産開示手続を経ることが必要ですので、今後は、不動産調査の有効な手段となることが期待されます。

改正民事執行法による機能強化

改正民事執行法で財産開示手続の機能が強化されたのは、債務名義の制限解除と刑事罰の導入です。

  • 債務名義の制限解除(民事執行法197条)
    今までの財産開示手続では、債務名義が確定判決や和解調書などに限定されており、手続を利用するためには、判決の確定や和解の成立という長い時間を要しました。しかし、民事執行法の改正で債務名義の制限が解除され、公正証書や仮執行宣言(判決が確定する前の仮の執行力)の判決でも手続を利用できるようになりました。
  • 刑事罰の導入(民事執行法213条)
    今までの財産開示手続では、債務者が裁判所に来なかったり、嘘をついたりしても、30万円以下の過料という行政罰しかありませんでした。このペナルティの弱さゆえに、あまり機能せず、申立件数も少ない手続でした。
    しかし、民事執行法の改正でペナルティが強化され、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という「刑事罰」が科されるようになりました。つまり、財産開示手続に来なかったり嘘をついたりすると犯罪になりますので、今後は、債務者が財産開示を拒むことは困難になります。

財産開示手続の申立てに必要なこと

①執行力のある金銭債権の債務名義の正本を有していること

財産開示手続は誰でも申し立てることができる手続ではなく、原則として、「債務名義」を取得した後で利用できる手続になります。

「金銭債権」とは、貸金や売掛金などのお金を請求できる権利のことです。

「執行力のある債務名義」とは、強制執行認諾文言付きの公正証書、和解調書、確定判決などの書類(民事執行法22条)で、いわば強制執行するためのパスポートのようなものです。

つまり、単なる合意書や契約書では足りず、強制執行のお墨付きをもらった人が申し立てることができます。

なお、例外的に、「一般先取特権」(民法306条)という優先的な債権を有している債権者は、債務名義なしで財産開示手続の申立てができます。債務名義の正本で申し立てる場合とは要件が異なりますが、以下、ここでは割愛します。

②執行開始要件を備えていること

債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されていること等の執行開始要件を備えていることが必要です。

③強制執行を開始することができない場合でないこと

債務者の破産手続や民事再生手続が開始されると、そもそも強制執行ができなくなりますので、強制執行の前段階である財産開示手続もできなくなります。この場合、破産手続や民事再生手続の中で配当や弁済を受けることになります。

④強制執行が功を奏しない場合であること(強制執行不奏功の要件)

以下のどちらかの事実を主張・立証する必要があります。

  • 強制執行をしたが完全な弁済を得ることができなかったこと
    申立ての日前6か月内に実施された強制執行又は担保権の実行における配当手続・弁済金交付手続において,債務名義に表示された金銭債権の完全な弁済を受けられなかったことを明らかにします。具体的には、配当表や弁済金交付計算書の写しなどを証拠として提出します。

  • 知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が完全な弁済を得られないこと
    債務者が預金口座、不動産、給料などの財産を持っているかどうかを調査し、それらを差し押さえても,債務名義に表示された金銭債権の完全な弁済を受けられないことを明らかにする必要があります。まずは通常行うべき調査をし、報告書やその裏付けを証拠として提出します。

⑤債務者が申立日の前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと

債権者が申立てで明示的に主張・立証する必要はありませんが、財産開示手続実施前に明らかになった場合には、申立てが却下される可能性があります。

財産開示手続の流れ

①財産開示手続の申立て

預金口座の情報提供手続の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
・申立書
・執行力のある債務名義の正本
・債務名義の送達証明書(家事審判が債務名義の場合は確定証明書)
・(債務者が法人の場合)債務者の代表事項証明書
・(債務者の特定で必要な場合)債務者を特定するための戸籍謄本・住民票・戸籍の附票
・強制執行不奏功の要件に関する資料

なお、財産開示手続を申し立てる裁判所(管轄裁判所)は、債務者が現在住んでいる住所地を管轄する地方裁判所です。

たとえば、債務者が東京23区(及び島しょ部)に住んでいる場合は東京地方裁判所民事執行センターに、東京都のそれ以外に住んでいる場合は東京地方裁判所立川支部に申立てをすることになります。

また、申立手数料(収入印紙)は、1件(債務者1人)2000円です。郵便切手は各裁判所によって取扱いが異なりますので、事前に確認が必要です。

②財産開示手続実施決定の発令

申立ての要件を満たしていると判断された場合、裁判所が財産開示手続を実施するという命令(実施決定)を発令します(民事執行法197条1項)。

なお、申立てが却下された場合、申立人は、執行抗告という不服申立てをすることができます。

③財産開示期日の指定・開催

実施決定が確定すると、裁判所は、財産開示期日と財産目録提出期限を指定します。なお、債権者は、債務者が提出した財産目録を閲覧・謄写できますので、財産開示期日の前に内容を確認しておきます。

債務者は、財産開示期日に出頭し、嘘をつかないという宣誓をした上で,財産開示期日時点で所有している財産を明らかにします。財産開示期日に出頭しなかったり、財産の内容について嘘をついたりすると、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という「刑事罰」が科されます(民事執行法213条)。

財産開示期日は非公開ですが、申立人も参加し、債務者に対して質問をすることができます。ただし、裁判所の許可が必要ですので、手続を円滑に進めるため、事前に質問事項を裁判所に提出しておく方がいいでしょう。

財産開示手続のまとめ

財産開示手続を利用すれば、債務者を裁判所に呼び出し、不動産の存在を明らかにさせることができます。今までは、財産開示期日に出頭しなかったり嘘をついたりしてもペナルティが軽かったため、実効性のない手続でした。しかし、ペナルティが強化されましたので、不動産の調査方法として有力な選択肢になると思われます。

第三者からの情報取得手続で不動産を調査する方法(未施行)

第三者からの情報提供手続は、2020年4月施行の改正民事執行法で新設された新しい制度です。法務局から不動産の情報の提供を受けますので、たとえ債務者が財産開示期日に出頭しなかったり嘘をついたりしたとしても、第三者からの情報提供手続を利用すれば、不動産を発見・特定できます。

なお、不動産の情報取得手続については、2021年2月現在、まだ施行されていません。しかし、2021年5月16日までに開始されることになっていますので、将来の手続利用を想定した対応を考える必要があります。

要件や手続は預金口座の情報取得手続とほぼ同じですので、以下、預金口座とは異なる部分のみ説明します(詳細は「預金口座の調査方法」を参照)。

預金口座の情報取得手続と異なる部分

①財産開示手続を先に行う必要があること

不動産の情報取得手続では、預金口座の情報取得手続とは異なり、情報取得手続申立ての日より前3年以内に財産開示期日における手続(民事執行法199条)が行われたことを証明する必要があります(財産開示手続前置)。

そのため、まずは財産開示手続を申し立て、財産開示期日が実施されたことの証明書を取得することになります。

②情報提供決定が発令された段階で債務者に情報取得手続について知られること

預金口座の情報取得手続では、債務者が手続について知るのは金融機関が情報提供をしてからですが、不動産の情報取得手続では、情報提供決定が発令された段階で、債務者に情報提供命令正本を送達します。つまり、この段階で、債務者に情報取得手続について知られることになります。

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