父の相続と母の相続は別問題
父の相続の時、母と長男が多くを相続し、自分はあまりもらわなかったということがあります。遺産の中心が自宅不動産の場合、法律上の相続分にこだわらず、そこに住んでいる母に自宅不動産を相続させることはありそうな話です。
しかし、もし母の相続の時に多くもらうことを期待したならば、それは注意が必要です。父の相続と母の相続は別問題であり、父の相続の時にあまりもらわなかったからといって、母の相続で法定相続分以上にもらえるわけではないのが原則だからです。
母の相続の時には多くもらう約束をしていても万全ではない
では、他の兄弟との間で、母の相続の時には自分が多くをもらう約束をしていれば大丈夫でしょうか。
他の兄弟がその約束を守り、母の相続の時に多くをくれれば問題ありません。しかし、父の相続と母の相続は別問題であり、そのような約束があったからといって、母の相続における法定相続分が変わるわけではありません。そのため、母の相続の時には多くもらう約束をしていたとしても万全ではなく、安心材料にはなりません。
逆に、母が、自分の相続した父の遺産を長男に生前贈与をしたり、ほとんどの財産を長男に相続させる遺言を作ったりする可能性もあり、そのような場合、父の相続でも母の相続でも少ししかもらえないという結果になります。
父の相続の時にどのような対応をすればいいか
では、父の相続の時にどのような対応をすればいいのでしょうか。
母に遺言書を作ってもらう
まず、母に遺言書を作成してもらうことが考えられます。しかし、他の兄弟に遺留分を請求されるリスクが残ります。
他の兄弟には、母の相続に関する遺留分を事前に放棄してもらうことも考えられますが、遺言はいつでも撤回できますので、知らない間に撤回されれば元も子もありません。
母と死因贈与契約書を取り交わす
遺言書ではなく、死因贈与契約という契約書にしておくことも考えられます。死因贈与契約は、亡くなった時に遺産を贈与することを約束する契約ですので、遺言書とほぼ同じ効果があります。贈与する財産の内容を双方が確認し、納得の上で取り交わしができますので、一人で作れる遺言よりも安心感はあります。
しかし、死因贈与契約も、遺言同様、原則として撤回可能とされています。通常の契約とは異なり、拘束力はありません。撤回が制限される場合もありますので、遺言書よりは多少安心感がありますが、こちらも万全とは言えません。
母の相続の時には多くをもらうという条件を遺産分割協議書に書いておく
父の相続の時の遺産分割協議書に、母の相続の時には多くもらうことを条件とすると明記しておくことも考えられます。約束が実現されない場合、遺産分割協議を解除したり、錯誤で無効(取り消し)にしたりできる可能性があります。しかし、総合判断になるため、確実なものではありませんし、父の相続のやり直すことになりますので、相続税や登記などにも影響を及ぼし、かなり複雑な話になります。
最初の遺産分割を慎重に行うことが重要
このように、母の相続の時には多くをもらうつもりであっても、それを実現する手段は限られています。将来を期待しすぎると後になって後悔する場合がありますので、最初の遺産分割を慎重に行うことが重要といえます。