使い込み(使途不明金)問題で重要な資料とその取得・調査方法

先日、母が亡くなり、遺産分割の話をしています。しかし、年金と賃料収入があったはずなのに、預金残高がやけに少ないです。通帳を管理していた兄が使い込んだのではないかと疑っているのですが、証拠となる書類などはあるのでしょうか。

使い込み問題では裏付けの取得・精査が必須

被相続人(亡くなった人)の預貯金が不自然に少ない場合、被相続人の財産を管理していた親族が使い込んでいた可能性があります。預貯金が無断で使い込まれたのであれば、被相続人は、使い込んだ親族に対し、損害賠償請求(ないし不当利得返還請求)できたことになりますので、その損害賠償請求権(ないし不当利得返還請求権)が相続財産となります。

たとえば、1000万円の使い込みがあり、相続開始時の預貯金はゼロになってしまったとします。預貯金はゼロですので遺産分割できませんが、1000万円の損害賠償請求権(ないし不当利得返還請求権)も相続財産ですので、法定相続分を取得します。逆に言えば、使い込みに気が付かなければ、本来相続できる財産を相続できないことになります。

しかし、預貯金が減る原因は使い込み以外にも考えられ、生活費、介護・医療費、リフォーム代、生前贈与など様々あります。また、損害賠償請求権(ないし不当利得返還請求権)は請求する側が証明しなければなりませんので、「使い込みに違いない」と自分では確信していたとしても、裁判所を説得できるだけの材料を用意できなければ負けてしまいます。そのため、使い込みかどうかの判断は慎重にすべきであり、可能な限りの裏付けを取得し、しっかり精査をする必要があります。

使い込み問題における「4点セット」とは?

使い込み問題では、様々な資料を総合的に精査・分析しますが、その中でも、相続人の立場で取得し得る「4点セット」というべき重要な資料があります。

その「4点セット」は、以下の資料になります。
①預貯金口座の取引明細書
②要介護認定記録
③介護記録
④医療記録

なお、各機関によって名称が異なりますが、上記の名称で大体話が通じるかと思われます。

使い込み問題でなぜ「4点セット」が必要か?

使い込み問題の起点となる取引明細書

使い込み問題で重要なのはお金の流れで、その起点となるのが「預金の引出し」です。通帳を見れば早いのですが、過去の通帳は紛失・廃棄している場合はよくありますし、通帳を管理している親族が開示しない場合もあります。

通帳を確認できない場合に、その代わりとなるのが「取引明細書」です。取引明細書には、通帳と同様、預金の出入金が記載されていますが、出金の年月日や振込先だけでなく、何時何分にどこの支店で取引したかが記載されている場合が多いです。それにより、いつ誰が引き出したのか推測できる場合があります。たとえば、被相続人の生活圏とは離れた支店で預金の引出しがなされていれば、被相続人が引き出したのではなく、相続人の一人が引き出した可能性が高くなります。

まずは取引明細書から預金の引出しを発見し、それを起点に使い込みかどうかの分析を行うことになります。

被相続人の判断能力・生活状況等を把握できる要介護認定記録・介護記録・医療記録

疑わしい預金の引出しを発見できれば、後は向こうが説明・証明すべき問題だと誤解しがちです。確かに、全く説明しなかったり不合理な説明に終始したりすれば、使い込みの疑いが深まります。しかし、使い込みの立証をすべきなのは請求する側ですので、疑わしい預金の引出しを指摘し、あいつが自分の懐に入れたに違いないと騒ぐだけでは全く不十分です。

使い込み問題で重要なのはお金の流れであり、預金の引出しの後、引き出されたお金がどこに行ったのかを合理的に説明する必要があります。預金引出し後のお金の流れを合理的に説明するためには、通帳やキャッシュカードの管理は普段誰がしていたか、預金引出しの時、被相続人はどこで何をしていたか、被相続人以外の人が預金引出しをしていたとして、被相続人の同意はあったのか、引き出したお金をどのように使うことまで同意していたのか、そもそも同意できる判断能力があったのか、当時の生活状況で必要となる程度の金額だったのか、特別な支出が必要な生活状況だったのかなど、様々な事情を個別具体的に分析し、推測する必要があります。

その中でも、最も分かりやすいのは認知症です。認知症が進行すれば、そもそも預金引出しの同意すらできない状態になります。また、生活費、介護費、医療費などの日常経費以外にお金を使う場面が少なくなり、大きなお金を引き出す理由はあまりなくなります。にもかかわらず大きなお金の引出しがある場合は、被相続人のための引出しではなく、預金管理をしていた親族自身のための引出し(相続財産減らしを含む)の可能性が高くなります。

被相続人の判断能力や生活状況等を把握できる資料の代表が、要介護認定記録、介護記録、医療記録です。いずれも、認知症の程度、判断能力・身体能力の程度、入院歴・病歴、当時の生活状況など、使い込みの判断における最重要の情報が含まれています。被相続人の判断能力・生活状況等を預金引出しの時期・金額と対照させ、被相続人のための引出しか預金管理者のための引出しかを分析していきます。

「4点セット」はどのように取得するか?

預金口座の取引明細書

取引明細書の請求先は、被相続人名義の預金口座がある各金融機関です。どこの支店でも発行手続ができるのが通常です。近くに支店がない場合、郵送で対応してくれるところもありますので、電話で問い合わせをして確認します。

しかし、ネックとなるのが取引明細書の発行手数料です。各金融機関によって違いますので、どこの金融機関の取引明細書をどこまで遡って取得するかは発行手数料も考慮しながら決めます。電話で問い合わせてもいいですが、インターネットで「●●銀行 取引明細書 手数料」と検索すれば、通常、該当ページにたどり着きます。ただし、各金融機関によって名称が異なります(預金入出金取引証明、取引推移表、取引履歴明細表など)ので、どの書類なのかは注意が必要です。

また、取引明細書の取得には、相続人であることが分かる資料等を提出する必要があります。通常、被相続人の死亡記載のある戸籍謄本、相続人であることが分かる戸籍謄本、相続人の印鑑証明書、相続人の身分証明書があれば発行してもらえますが、各金融機関によって異なる場合もありますので、事前に確認する必要があります。

要介護認定記録

要介護認定記録の請求先は、被相続人の居住地の市区町村です。

もっとも、情報開示の手続や必要書類は各市区町村によって異なりますし、実際に介護していた相続人でなければ申請できないところもあります。そもそも開示請求できるかどうかも含め、まずは電話で確認することをお勧めします。担当部署は各市区町村によって異なりますが、「要介護認定記録の情報開示を担当している部署」と指定すればつないでもらえると思います。

なお、相続人の立場でも要介護認定記録を取得できない場合は、弁護士会照会という弁護士固有の調査方法や裁判所の証拠調べ(文書送付嘱託)が必要になります。ここも市区町村によって取扱いが異なります。

介護記録

介護記録の請求先は、被相続人が利用していた介護施設です。

どこの施設を利用していたか分からない場合もありますが、要介護認定記録の認定調査票に記載されていますし、施設利用料の支払が口座引落しであれば、取引明細書を見れば施設名が分かります。

請求の手続や必要書類は介護施設によって異なります。また、そもそも相続人の立場で請求できるかどうかも異なりますので、まずは電話で確認することをお勧めします。

相続人の立場で介護記録を取得できない場合の対応は、要介護認定記録と同じです。

医療記録

医療記録の請求先は、被相続人が利用していた医療機関です。

どこの医療機関を利用していたか分からない場合もありますが、要介護認定記録の主治医意見書に記載されていますし、介護記録に医療関係の記録が出てくる場合もあります。請求者、請求の手続、必要書類が医療機関によって異なるのは介護施設と同様ですので、まずは電話で確認することをお勧めします。

相続人の立場で医療記録を取得できない場合の対応は、要介護認定記録と同じです。

使い込み問題の難しさ

使い込み問題の難しさは、肝心の被相続人が亡くなっているため、真相が必ずしも分からないことです。大きなお金の引出しの場合、何か特別な理由があるはずですが、小口の引出しの場合、積算すれば金額が大きくなるとしても、お金の使い道は様々考えられるため、使い込みかどうかの判断は難しくなります。

使い込みと決めつけてしまうと、逆に遺産分割で特別受益や預り金として扱うチャンスを失いかねませんので、被相続人のための支出、使い込み、特別受益、預り金などいずれの可能性も排除せず、選択肢として持っておくべきです。手持ちの資料と相手方との交渉状況からどこで見切りをつけるか、合理的で冷徹な戦略が必要になります。

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