相続問題を取り扱っていると、相続の手続に関するご相談を受けることがあります。手続自体は決まったとおりにすれば足りるのですが、たくさんある手続を前に尻込みしてしまう方も多いようです。そこで、今回は、自分で相続手続をするための思考方法をお話します。
相続手続は自分でできる!
相続が始まると、様々な手続が必要になります。死亡届、健康保険・介護保険の資格喪失手続、遺族年金の手続、戸籍謄本の収集、預金・株式などの名義変更、相続登記、相続税の申告など、書籍やインターネットで紹介されている大量の手続を見ただけで心が折れてしまいそうになります。
そのため、自分には無理そうだから、相続手続の専門家に任せないとダメだと考えがちです。しかし、誰かに頼めば費用が発生します。それも結構な費用が。
書籍やインターネットで紹介されている手続の全てが皆さんに必要な手続でしょうか?様々な手続を知っていなければならないのは専門家だけです。皆さんが知る必要があるのは、「自分に必要な手続だけ」です。しかも、自分の相続が終われば、次の日に忘れてしまってもいい情報であり、覚えている必要は全くありません。その時だけ必要な情報を取得し、その時だけ実践すれば足ります。
お金よりも時間が大事という人は、費用をかけて相続手続の専門家に頼んだ方が手っ取り早いです。しかし、手続にかかる時間を短縮できるのであれば、自分で手続をやってみようと考える人もいるのではないかと思います。
以下では、相続を圧倒的に安く済ませるための総論的なルールを3ステップで紹介します。細かい手法は別の機会に譲りますが、大きなポイントとなるのは、
- 手続をする所(手続先)のホームページにダイレクトでアクセスする
- 手続の確認・相談をするのは手続先だけにし、自力で相続手続をする
ことです。それで相続手続は圧倒的に安く済みます。
ステップ1:自分に必要な手続の内容と問い合わせ先を整理する
皆さんに必要なのは相続手続の情報ではありません。「自分に必要な」相続手続の情報です。それ以外は知る必要すらありません。このマインドが決定的に重要です。
そこで問題になるのは、どうすれば自分に必要な手続だけをピックアップし、手続の内容を調べることができるかです。しかし、これはそこまで難しいことではありません。以下の順序で淡々と作業をします。
亡くなった人の通帳、カード類などの資料を揃える
亡くなった人の自宅にある通帳、カード類、証明書、書類、請求書、領収書などの資料を探し、確保します。これらを起点にして、自分の相続に必要な手続を把握していきます。
資料を整理し、手続を行う機関を確認する
資料を揃えたら、それぞれ財産・負債・契約・役所に仕分けをし、資料を見ながら種類と手続先を書き出していきます。意外に重要なのは通帳で、口座からの引落し・送金を確認し、手続が必要そうなものをピックアップしていきます。
手続先がすぐに分からないものは、どこでどのような手続をするかだけは先に調べておきます。エクセルなどで表にするとなおいいです。
【例】
・資産
種類:●●銀行口座(口座番号●●) 手続先:●●銀行●●支店
種類:自宅 手続先:●●法務局(名義変更)、●●税務署?(相続税?)
・負債
種類:自動車ローン 手続先:●●銀行●●支店
・契約
種類:電気料金 手続先:●●電力
・役所
種類:健康保険証 手続先:●●市役所
手続先が運営しているホームページにダイレクトでアクセスする
「預金 ●●銀行 相続」などのワードでインターネット検索をし、「手続先が運営しているホームページの該当ページ」にダイレクトでアクセスします。たどり着いたホームページが手続先のホームページかどうかを必ず確認してください。それ以外は無視です。
以降のステップとも関係しますが、相続手続の専門家(サービス事業者)やポータルサイト事業者を介した二次情報ではなく、手続の一次情報とその問い合わせ先を確かめることが主な目的です。
手続先の該当ページで手続と問い合わせ先を確認する
手続先の該当ページにアクセスしたら、そのページに書いてある手続、必要書類、問い合わせ先を書き出します。プリントアウトするとなおいいです。
ステップ2:分からないことがあれば、手続先に直接相談・確認する
手続を説明したページがなかったり、よく分からない部分があれば、手続先に直接確認・相談してください。なぜなら、一次情報を提供している手続先に直接聞いた方が圧倒的に早いですし、サービスの売り込みもないからです。サービス事業者やポータルサイト事業者はボランティアで情報提供しているわけではなく、依頼(報酬)に結び付けるための導線として二次情報を提供しているにすぎません。
皆さんは税金を払っているわけですから、役所は特に使い倒すべきです。戸籍の取り方など手間がかかりがちな手続についても、分かるまできっちり教えてもらいましょう。
ステップ3:何ともしようがない時にだけサービス事業者に「相談」する
相続手続の専門家(サービス事業者)に相談するのは、自分では何ともしようがない時にだけです。依頼ではなく「相談」です。相談するのも最後の最後です。
皆さんは、銀行や保険会社の職員から対面でサービスの説明を受け、つい契約してしまったという経験はないでしょうか。サービスの提供者に相談すれば、提供しているサービスを勧められるのは当然です。ですので、相続手続を圧倒的に安く済ませたいのであれば、サービス事業者に相談すること自体、自分では何ともできず、依頼する必要性を痛感した後にした方がいいでしょう。
「紹介」を断る重要性
相続手続の専門家(サービス事業者)を「紹介」されることもありますが、相続を圧倒的に安く済ませたいのであれば、紹介自体を断った方がいいです。
たとえば、病院が葬儀社を紹介してくれることがありますが、ボランティアで紹介してくれるわけではありません。病院と葬儀社との間で提携契約を結んでおり、葬儀社→病院に「紹介料」を支払うのが一般的です。もし紹介料が売上に比例して決まるのであれば、料金の高い葬儀社を紹介した方が病院にメリットがあることになってしまいます。
そして、その葬儀社がさらに別のサービス事業者を紹介するという「紹介の連鎖」が始まります。もちろん、紹介先にサービスの依頼をすれば、費用もかかります。
浮いたお金は別のことに使いましょう!
相続手続を自分でやろうとすると、手間と時間がかかるのは確かです。しかし、自分に必要な手続だけを、その手続先に直接確認・相談しながらやるのであれば、かなりの手間と時間を省略できます。余計な手間と時間がかかるのは、よく分からないまま、自分に関係のない手続までやみくもに調べてしまうからです。
相続を無料か圧倒的に安く済ませることができれば、浮いたお金で食事に行ったり、旅行に行ったりすることができます。それを励みにして、焦らずじっくりと取り組むのもいいと思います。
もちろん、お金より時間が大事という人は、最初から専門家に相談し、依頼した方が早いです。それを否定するわけではありませんし、自分では何ともできない場合には、むしろ専門家に相談した方がいいです。ただし、広告や紹介に流されるのではなく、必要性とタイミングを見極め、自分の判断で相談した方がいいでしょう。